配偶者に浮気や不倫といった「不貞行為」をされた場合、慰謝料を請求することができます。
しかし、長い間慰謝料を請求しないままでいると、慰謝料請求ができなくなってしまいます。
慰謝料請求には時効があり、時効が成立するまでに慰謝料を請求する必要があるためです。
ただし、時効の成立が迫っている場合には、更新や完成猶予という手続をとることで時効(期限)を延ばすことができます。
この記事では、
- 慰謝料請求の「時効」とは
- 不貞行為の慰謝料を請求する場合の時効
- 不貞行為の慰謝料請求の時効の更新・完成猶予の方法
- 不貞行為の慰謝料を請求する際の注意点
- 不貞行為の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
について、弁護士が詳しく解説します。
慰謝料請求の「時効」とは?
慰謝料請求の「時効」とは、「慰謝料を請求するなら、この期限までにやってね」という法律上の制度のことです。
権利を行使せず放置している場合、放置する側にはその責任がありますし、請求される側も「もう請求されることはないだろう」という期待を持ってしまうものです。
そこで、請求される側にとって、いつ請求されるのか不安定な状態がいつまでも続くのはよくないという考えのもと、「一定の期間」が経過することにより権利が消滅するという制度(「消滅時効」といいます)が設けられました。
なお、請求される側が「時効が成立したから、支払わなくてもいいはずだ」と主張(時効の援用)しない限り、権利が時効消滅することはありません。
そのため、請求する側は、時効が成立していても慰謝料請求することができ、請求される側が任意で支払いに応じれば、支払いを受けることができます。
ただし、請求される側が、「時効の成立」を主張して時効の援用をした場合、慰謝料の支払いを強制することはできません(裁判や調停をしても、請求が認められることはありません)。
不貞行為の慰謝料を請求する場合の時効は?
慰謝料請求の時効は2020年4月1日の民法改正により、少し規定が変更されています。
慰謝料請求の時効と、民法改正による変更点とその影響について説明します。
(1)慰謝料請求の時効(2020年4月1日民法改正に対応)
民法上、不法行為(不貞行為など)による損害賠償請求権の時効は次のように定められています。
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する
第1号 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
第2号 不法行為の時から20年間行使しないとき。
上記のうち、いずれか早い時点が時効の完成日となります。
※なお、2020年3月31日までに不貞行為時から20年が経過している場合は、時効ではなく「除斥期間の経過」により不貞の慰謝料を請求する権利は消滅しています。
詳しく説明します。
(2)慰謝料請求の時効の起算日はいつから?
条文から、不法行為の慰謝料請求の時効が「3年」もしくは「20年」ということはわかったと思います。
では、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時」もしくは「不法行為の時」とはいつの時点をいるのでしょうか。
この時効のカウントを始める日を「起算日」といいます。
この起算日は「配偶者への慰謝料請求」と「不倫相手への慰謝料請求」の場合で異なります。さらに、前者の「配偶者への慰謝料請求」については、「離婚しなかったケース」と「離婚したケース」で起算日が異なります。
(2-1)配偶者に対して慰謝料請求をする場合(離婚しなかったケース)
配偶者に対して慰謝料請求をする場合(離婚しなかったケース)の時効の起算日は、原則として次のとおりです。
被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時 | 配偶者が不貞行為をしていることを知ったとき |
---|---|
不法行為の時 | 最後に不貞行為があったとき |
もっとも、婚姻関係が続いている限りは、時効で消滅することはありません。
民法第159条によって、婚姻関係が継続中と婚姻関係を解消から6ヵ月経過するまでは、時効の完成が猶予されているためです。
夫婦の一方が他の一方に対して有する権利については、婚姻の解消の時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
(2-2)配偶者に対して慰謝料請求をする場合(離婚したケース)
配偶者に対して慰謝料請求をする場合(不貞行為を理由に離婚したケース)の時効の起算日は、次のとおりです。
被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時 | 離婚が成立したとき |
---|---|
不法行為の時 | 最後に不貞行為があったとき |
(2-3)不貞相手に対して慰謝料請求をする場合
不貞相手に対して慰謝料請求する場合の時効の起算日は、次のとおりです。
被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時 | 不貞行為をしていることに気づき、かつ、不貞相手の名前や住所(連絡先)を知ったとき |
---|---|
不法行為の時 | 最後に不貞行為があったとき |
不倫相手に対して慰謝料請求をする場合には、浮気や不倫に気づいたことに加え、不倫相手の名前や住所(連絡先)を知ったときという条件があります。
これは、不倫相手が誰かわからなければ、不倫相手に対して慰謝料を請求したくてもできないためです。不倫相手がわからないにもかかわらず、時効が進行してしまうのは、あまりに請求者に酷なので、このような条件が付けられています。
(3)民法改正のポイント・影響
改正前の民法では、「不法行為の時から20年」という規定は「除斥期間」とされ、「時効」とは異なる扱いになっていました。
「除斥期間」は、「時効」とは違い更新や完成の猶予ができず(改正前は「時効の中断」といっていました)、期限の延長ができませんでした。
さらに、「時効」とは違い、相手が時効の完成を主張するか否かを問わず、期間が到来したら請求をすることはできませんでした。
今回、「不法行為の時から二十年」という規定が除斥期間ではなくなったことで、改正前よりも慰謝料請求できる可能性が広がりました。
ただし、2020年3月31日までに「不法行為から20年が経過している場合」は、除斥期間の経過により慰謝料請求することはできません。この点には注意が必要です。
不貞行為の慰謝料請求の時効の更新・完成猶予の方法
不貞行為の慰謝料請求の時効を完成が迫っている場合には、時効の延長(時効の更新・完成猶予)をしましょう。
慰謝料請求の時効の更新・完成猶予の方法は、次のとおりです。
- 裁判所に慰謝料請求の訴えを提起する
- 内容証明郵便で慰謝料を請求する
- 協議を行う合意をする
- 相手に慰謝料を支払うことを認めさせる
- (慰謝料を支払うことにはすでに合意している場合)強制執行、仮処分、仮差押えを行う
ここにも民法の改正前後で変わった部分があります。
改正前の民法には、時効の「停止」と「中断」があり、「停止」事由が発生すると、時効の完成は猶予されていました。また、「中断」事由が発生すると、時効は各事由が終了したときから、中断の効果は生じないとされていました。
これに対し、改正民法では、新しく時効が進行することを「更新」と呼びます。そして、更新の前提となる、一定時点まで時効が完成しないようにする仕組みを「完成猶予」と呼ぶようになりました。
そのため、2020年4月1日より前に停止・中断の事由(裁判上の請求・差押え等・承認など)が発生していた場合には、旧民法に基づき停止・中断の効力が生じ、2020年4月1日以降に上記の完成猶予・更新の事由が生じた場合には新民法に基づく完成猶予・更新の制度が適用されます。
また、協議合意による時効の完成猶予は、新民法で初めてできた規定のため、2020年4月1日以降に書面で合意された場合に適用されることになります(民法改正の経過措置について、民法附則平成二十九年六月二日法律第四十四号)。
(1)裁判所に慰謝料請求の訴えを提起する
慰謝料請求の場合、裁判所に慰謝料請求の訴えを提起することで、時効の完成が猶予されます。
この場合、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき」、つまり、「確定判決が出た時点」、もしくは、「裁判上の和解をした時点」で、時効は新たに進行を始めます。
この、時効が新たに進行することを「更新」といいます。
※なお、支払督促、調停をおこすことでも同様の効果が得られます。
(2)内容証明郵便で慰謝料を請求する
内容証明郵便などの確定日付のある書面によって慰謝料請求を求めることによっても、時効の完成を猶予することができます。
慰謝料の請求があったときから6ヵ月が経過するまでの間は、時効の完成が猶予されます。
内容証明郵便などによって慰謝料請求を行うことは何度もできるのですが、それによってさらに時効の完成が猶予されるということはありません。
さらに、完成の猶予を望む場合には、6ヵ月以内に裁判を提起するなどの手段にでる必要があります。
※「内容証明郵便」とは、日本郵便が行う郵便サービスの一種で、差出人、名宛人、送った文書の内容を郵便局が証明してくれます。慰謝料請求など金銭的請求を行う場合には、内容証明郵便を用いて相手に請求することがよくあります。
(3)協議を行う合意をする
改正民法が新設した完成猶予事由です。
権利について協議を行う旨の書面または電磁的記録でされたときは、以下の1~3のうちいずれか早いときまでの間、時効の完成が猶予されます(改正民法第151条)。
- その合意があったときから1年を経過したとき
- その合意において定められた協議期間(1年未満に限る)を経過したとき
- どちらかが協議の続行を拒絶する旨の書面による通知をしたときは、その通知から6ヵ月を経過したとき
(4)相手に慰謝料を支払うことを認めさせる
相手が慰謝料の支払いを認めた場合には、そのときから新たに時効が進行します(時効の更新)。
慰謝料の支払いに関する書類に債務者に署名捺印させることで、慰謝料の支払いを認めた証拠となります。
また、相手が慰謝料の一部を支払った場合、慰謝料の支払い期限の延長を求めてきた場合、減額を求めてきた場合も、慰謝料の支払いを認めていることになります。
(5)(慰謝料を支払うことにはすでに合意している場合)強制執行、仮処分、仮差押を行う
慰謝料を支払うことに合意しているケース、もしくは、慰謝料の支払いを命ずる判決がすでにあるケースで、慰謝料の支払いを求めているにもかかわらず相手が支払わない場合、相手の財産につき、強制執行、仮処分、仮差押えできることがあります。
そして、相手が慰謝料を支払わない状態で時効の完成を迎えそうな場合には、強制執行、仮処分、仮差押えの手続き行っても、時効の完成が猶予されます。
強制執行の場合、手続が終了したときから、新たに時効が進行します。
仮処分、仮差押えの場合、手続きが終了したときから6ヵ月を経過したのちに、新たに時効が進行します。
※仮処分、仮差押えとは、強制執行を待っていられないなど緊急性がある場合に行われる手続です。
不貞行為の慰謝料を請求する際の注意点
不貞行為の慰謝料を請求する際の注意点は次のとおりです。
- 慰謝料請求は早めに行う
- 不貞行為の証拠は早めに集める
詳しく説明します。
(1)慰謝料請求は早めに行う
これまで説明してきたとおり、不貞行為の慰謝料請求には時効があります。
基本的には、不貞を知ったときから3年以内なので、それまでには請求しなければなりません。
不貞行為について許すか許さないかを迷ったり、子どもが小さい場合には「子どもが大きくなってから」と考えたりと、先延ばしにしてしまうこともあるかもしれません。
しかし、慰謝料請求をしたいのであれば、先延ばしにするにしても必ず時効が完成する時期を意識して、時効が完成してしまう前(原則、不貞行為を知ってから3年以内)に請求を行う必要があります。
(2)不貞行為の証拠は早めに集める
不貞行為に対する慰謝料請求を検討している場合には、今すぐ請求しないとしても、とりあえず証拠を集めておきましょう。
不貞行為の証拠は、たとえば写真、SNSのやり取り、ラブホテルの領収書、支払履歴(カードなど)が挙げられますが、どれも時間が経過すると消えてしまったり、紛失してしまったりするものばかりです。そのため、証拠も早めに集めておきましょう。
また、現在は相手が不貞行為を行ったことを認めていたとしても、のちに慰謝料請求をすると、慰謝料を支払いたくないがために、態度を一変させて不貞を認めないこともあります。
相手が不貞行為を認めているか否かにかかわらず、不貞があったことがわかる証拠を集めておきましょう。
もちろん、相手が不貞行為を認めているのであれば、それも証拠となりますので、認めている旨の発言を録音しておく、もしくは、書面に「認めます」と一筆書かせるなどしておくのもよいでしょう。
ただし、不貞を認めさせるために脅迫的な言動をとるようなことは、決してしてはいけません。あくまで任意に認めてもらう必要があります。
一筆の際の押印も、指印ではなく、(シャチハタ以外の)印鑑を用いてもらうのが望ましいでしょう。
不貞行為の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
これまで説明したとおり、慰謝料請求は弁護士に依頼せずとも個人で行うことができます。
しかし、実際は多くの人が不貞相手の慰謝料請求を弁護士に依頼しています。
では、慰謝料請求を弁護士に依頼することで受けるメリットとは何でしょうか。
不貞行為の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリットは、次の3つが挙げられます。
- あなたの本気の怒りを伝えることができる
- 慰謝料を増額できる可能性がある
- トータルでサポートしてもらえる
順番に説明します。
(1)あなたの本気の怒りを伝えることができる
不貞当事者は、不貞行為を軽く考えていることも少なくありません。
そのため、不貞当事者は、あなた個人からの慰謝料請求に対して、請求を無視したり、請求を拒否したりすることもあるといえます。
しかし、弁護士から内容証明郵便などの書面が届くと、あなたの本気の怒りが伝わって、本当に訴訟を提起されてしまうのではないかと不安になり、きちんと対応するケースが多いのです。
(2)慰謝料を増額できる可能性がある
弁護士に依頼することで慰謝料を増額できる可能性があります。
慰謝料の金額の決め方には、決まった計算式はありません。さまざまな事情を考慮して慰謝料の金額を決めることになります。
そのため、少しでも高額な慰謝料を獲得するためには、過去の裁判例や法律の知識、交渉のテクニックが必要となるのです。
弁護士であれば、法律の知見を駆使して、粘り強く交渉し、少しでも高額な慰謝料の獲得を目指します。
(3)トータルでサポートしてもらえる
弁護士が交渉することで、あなたは不貞行為の当事者と接する必要はありませんので、余計なストレスがなくなります。
さらに弁護士であれば、慰謝料請求に限らず、不貞相手と配偶者の関係を断ち切り、慰謝料の未払いなどが起きないよう気を配りながら合意書を作成することができます。
弁護士に依頼することで、あなたの意向に沿って、トータルサポートをしてもらえるでしょう。
【まとめ】慰謝料請求の時効が完成する前に請求することが大切
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 慰謝料請求の「時効」とは、慰謝料請求の期限のこと
- 慰謝料請求の「時効」 ※改正後の民法が適用される場合
- 不貞行為(や不貞相手)を知った時、もしくは、離婚をしたときから「3年」
- 不貞行為があったときから「20年」
※なお、配偶者に対して慰謝料請求する場合には、婚姻関係が続いている限り、時効の完成が猶予されます。
- 不貞行為の慰謝料請求の時効の更新・完成猶予の方法 ※改正後の民法が適用される場合
- 裁判所に慰謝料請求の訴えを提起する
- 内容証明郵便で慰謝料を請求する
- 協議を行う合意をする
- 相手に慰謝料を支払うことを認めさせる
- (慰謝料を支払うことにはすでに合意している場合)強制執行、仮処分、仮差押えを行う
- 不貞行為の慰謝料を請求する際の注意点
- 慰謝料請求は早めに行う
- 不貞行為の証拠は早めに集める
- 不貞行為の慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
- あなたの本気の怒りを伝えることができる
- 慰謝料を増額できる可能性がある
- トータルでサポートしてもらえる
アディーレ法律事務所では、不貞行為の慰謝料請求につき、相談料、着手金をいただかず、原則として成果があった場合のみ報酬をいただくという成功報酬制を採用しています。
原則として、この報酬は獲得した慰謝料などからお支払いいただくため、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要がありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
詳しくは浮気・不倫の慰謝料請求の弁護士費用をご覧ください。
不貞行為の慰謝料請求でお悩みの方は、アディーレ法律事務所へご相談ください。
どのようなことに関しても,最初の一歩を踏み出すには,すこし勇気が要ります。それが法律問題であれば,なおさらです。また,法律事務所や弁護士というと,何となく近寄りがたいと感じる方も少なくないと思います。私も,弁護士になる前はそうでした。しかし,法律事務所とかかわりをもつこと,弁護士に相談することに対して,身構える必要はまったくありません。緊張や遠慮もなさらないでくださいね。「こんなことを聞いたら恥ずかしいんじゃないか」などと心配することもありません。等身大のご自分のままで大丈夫です。私も気取らずに,皆さまの問題の解決に向けて,精一杯取り組みます。